今の自分でいい

カウンセリングを終了したある男性を紹介します。

彼は仕事ができないこと、職場の環境が良くないことを、ずっと嘆いていました。

他の人の優れたところが目について、「自分は何もできない」「ここにいても意味はない」と感じていました。

「仕事を辞めたいけど、他にやりたいことが見つからない」。「自分の翼で羽ばたきたい」。

悩みは深まるばかりでした。

話を聞いても、転職するしか解決の道はないと思ったほどです。

彼は「理想の自分」があって、多くを望みすぎて、「現実の自分」に嫌気や劣等感を抱いていました。

他人に対しても「こうあるべき」、と自分の価値観を押しつけ、怒りを抱いていました。

でも、「この仕事は好きだ」と話すこともありました。

お客さんや同僚から慕われている様子もうかがわれました。

1年間のカウンセリングを通して、たどりついた結論は、休職することでも、転職することでもありませんでした。

「今の職場でやってみよう」ということでした。

そう語る姿は、悲観していたころの彼ではありませんでした。

今の自分でいい」という認識ができたのです。

それまで悩んでいた自分を振り返って、彼はこのように語りました。

辞めて、リセットしたら、素晴らしい人生が来ると思っていました。「ここは自分のいるべきとこでない」と正当化して、抱えているものをすべて捨てたかったのです。「羽ばたいていきたい」というのは、現実逃避でした。逃げることで楽になりたかった。それをやっても同じことの繰り返しで、また壁にぶち当たってしまうと気づきました。