Aさんには信頼を寄せている先輩がいます。
ところが、その人と話すとき手の動きが気になって話に集中できなくなっていました。
ある日、そのことを思い切って伝えました。
他の人と話すときも顔をじっと見て表情をよく観察するそうです。
「私は相手に目配せをして、その人の中に入れるかどうか様子をうかがいます。受け入れてもらえると感じたら、すっと入って温かいとこに収まります。膝に乗って頭をヨシヨシしてもらう感じです。……。友だちの家に行ったとき、雨で出かけられなくて泣いている子どもが、私の膝にやって来ました。頭を撫で撫でしてあげると、元気になって走って行きました。私はこれが欲しかったと思いました」
先輩はAさんに自分をしっかり見つめるように言いました。
先輩「何か気持ちの変化がありましたか」
Aさん「一線を引こう。入っちゃいけない」
先輩「それで寂しくないですか」
Aさん「いいえ。理解してくれたから。そのままでいい」
先輩「一線を引くというのは」
Aさん「だめだよと言ってる感じ。この人は言いなりにならない。支配できない。入っていっても無駄。しみじみ感じました」
先輩「それでどんな気持ちですか」
Aさん「切ない。涙が出てきました。悲しい。苦しい。もう大人になっちゃったから甘えられない。代替ができない。もっと父さん、母さんに甘えたかった」
「甘えたい」という欲求が幼少期に満たされないと、大人になって甘えられる相手を探します。
Aさんは人に親しみを感じると甘えたくなるけど、それがかなわないので想像の世界で満たそうとしていました。
でも、相手の表情や態度、仕草から、「甘えさせてくれない」と感じると、嫌な気持ちになっていたのです。
甘える方法は、スキンシップや依存することだけではありません。
思っていることや感じていることをそのまま聞いてもらって「分かってもらった」と感じる。
この体験が最良の方法なのです。
最後にAさんはこのように述べました。
「伝わるんだな。嬉しい、温かい気持ち。本当の気持ちが伝わる。穏やかな器の中にいる感じ。体まであったまってきました。ジワッと。不思議。体と心は繋がっているんですね。体がほかほかしています」