感情の記憶

1人の若者が、次のような話をしてくれました。

「この曲を聴くと、怖くなります。有名な曲なんで、よく流れています。この曲を聞くと、すぐに耳をふさぎます。とてもきれいな曲ですけど、怖くなります」

歌詞とは関係なく、メロディーを聞くと、怖くなるそうです。

「ある音を聞いたり、臭いを嗅いだりすると、懐かしい気持ちになることがあります。恐くなることもあります。この音楽を聞くと、昔の怖かった感情がよみがえってくるのかもしれませんね」と僕が話すと、彼は一つの思い出を語ってくれました。

子どものときに住んでいたアパートには、小学生の中に、「おとな」から「小学1年」までの階級ができていました。

僕はある日、突然、階級に組み込まれました。「ボス」が階級を命じ、逆転することもありました。とても怖かったです。

小学3年の途中、引っ越すことになり、ほっとしました。

この人は、物腰が柔らかい人ですが、自分のことを、「人によく気を遣い、ストレスに弱い」と話します。

「家を出たら、突然、階級社会の中に入れられ、怖かったでしょうね。 そのころ、この曲が流行っていたのかもしれませんね。あくまで僕の想像ですが」と、僕が話すと、

「今まで、この曲が怖いと思っていましたが、違うんですね」 と、彼が言いました。

記憶には、知識や出来事としてはっきりと思い出せないけど、 感覚や感情として残っている記憶があります。

何かを聞いたり、見たり、匂ったり、触ったときに、 以前の記憶がぼんやりとよみがえってくることがあります。

何かは、はっきり思い出せないのですが、 怖い、寂しい、腹が立つ、爽やか、ほのぼの、懐かしいといった、 感情が湧き起こってきます。

「どうやったら怖さがなくなるんですか?」と、彼が尋ねました。

「今日のように、思いついたことを話していくと、感情も一緒に表現されます。怖いのも少しずつ減ってくるかもしれませんね」 と、話しました。