立命館大学での講演(その2-大切にしたいこと PART1)

大切にしたいこと(PART1)

僕は、宗教、社会、学校、心理と、分野は異なりますが、教育的な仕事をしてきました。そのなかで「大切にしたい」思ってきたことを話します。

1.体験して、実感して、気づき、語って、学ぶ

(1)本物の体験をする

「言葉の力」が弱くなりました。インターネットを通して情報が氾濫し、現実感や真実味が薄れてきました。授業で、社会的な事象について事実や数字を伝えても、「あ、そうなんだ」で終わります。好奇心が乏しいです。

しかし、自分で体験して、実感して、気づいたことは、残ります。体験したことを、人に語ることで、学びがさらに深まります。

(2)ショックは変化の前触れ

知らなかったことに触れると、ショックを受けます。目を覆いたくなったり、泣き出すこともあります。反発することもあります。でも、それが事実なら、気づきます。

生徒は胎盤を見てショックを受けましたが、自分が生まれてきたことに気づきました。ニワトリや豚を絞めてショックを受けましたが、動物の命で自分が生かされていることに気づきました。

目の前の出来事以上に、それまで知らなかったことに、ショックを受けます。

ショックは「変化」の前触れです。ショックを受けて、世界が広がります。価値観が変わります。カルチャーショックもそうです。

教師や親の経験が乏しいと、子どもがショックを受けるのを恐れて、そういった機会を避けようとします。子どもは学びや成長の機会を失ってしまいます。

(3)今を生きる喜び

子どもは、将来のために準備するだけでなく、今、実感したり感動することで、生きる喜びを感じます。教育は、将来よりも、今を生きるためです。

学校では、将来の夢について聞くことがありますが、はっきりしない子どもにとって、この質問を何度もされるのは大きな苦痛です。

今やりたいことがあって初めて、将来やりたいことが見つかります。将来は今の延長線上にあります。

(4)学びのコーディネーター

人の能力は、「見えやすい力」と「見えにくい力」に分けることができます。

見えやすい力」は、知識や理解、技能などです。

見えにくい力」には、自己理解、自己コントロール、主体性、意欲、向上心、興味・関心、集中力、批判力、思考力、判断力、適応力、表現力、創造力、行動力、自己肯定感、信頼感、共感力、コミュニケーション力、統率力など、さまざまな能力が含まれます。

氷山で海面上に出ているのはほんの一部です。大部分は海面下にあります。海面上が「見えやすい力」、海面下が「見えにくい力」です。生きるためには、両方が必要ですが、僕は、特に「見えにくい力」を育てるために働いてきました。

見えにくい力」をつけるには、知識や情報の伝達だけではなく、生徒が自分で気づける「しかけ」が必要があります。

生徒が学びの主体です。教員は「教える人」ではなく引き出す人です。「学びのコーディネーター」です。子どもが自分で体験して学べる環境や条件を整えるのが、教員の役割です。

生徒の立場にたって、生徒にピタッとくる授業を創る。

そのためには、「何を学んでほしいか」を明確にし、そのために「どんな体験を準備するか」を考える。そして、「学んだことを検証する」ことが大切です。目標設定と検証を繰り返すことによって、生徒に定着する学びが生まれます。

(5)「評論家」でなく、「経験を語る人」

教師は自分が経験したこと、悩んだこと、気づいたこと、感じたことを語ります。若くても大丈夫です。探求する姿が生徒にとって魅力です。

2.行動の背景を理解する

「学校に行きたくない、勉強したくない、やる気がない」といった経験をしたことのある人はいませんか。親や友だちとの関係で悩んだことはありませんか。

こういう経験は教育活動をする上でとても大きな力になります。しんどい子の気持ちがわかります。共感できます。

子どもの発言や行動、態度には、背景があります。これを理解しよう、知ろうとすることが大切です。

「やる気がない」と言っても、両親の不和、親子関係、兄弟姉妹との関係、トラウマ、経済状態、学習面の困難さ、発達の特性、心身の状態など様々な要因が考えられます。

子どもを観察し、対話を重ね、勉強することで、子どもの理解が深まります。

次回に続く。